クリープハイプの「変な声」が、閉ざされた音楽業界をこじ開ける

今や「受け入れられた」と言えるクリープハイプ尾崎の「声」は確実に、J-POPからは異端であった。彼らが切り裂いた未来とは。

1、これは私とクリープハイプとの出会いの話

当時、私はいわゆる「本気」でやっていたバンドが解散した直後。
世の中の音楽、バンド全てに唾を吐きどくづき、
バイトに明け暮れ、酒を飲み、ギャンブルにハマっていた。
狂ったように食いつぶす日々に流れるラジオ

FMのパワープッシュが「クリープハイプ」というアーティストで
ボーカルは、「尾崎世界観」という名前
流れる曲は「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」

「変な声」で歌われる、わかりやすく
上手いことやクサイことを並べた歌詞
もはやうるせえとまで思いながら延々と聞かされる音

最近はこんなのがええんか、
いや、もうこんなんしか新しいもんがないんやろ

ダラダラと批判をあてに酒で飲み込んだ

そんなある日新曲のリリース
「社会の窓」
自虐ネタを放り込み、
毒を垂れ流しながら、
聞こえるのは、
音の奥の狂気。
ギターリフが掻き鳴らす、怒り。

それまであったクリープハイプに対する批判が角度を変えて
違和感へと変わっていった

そこから落ちていくのはすぐだった。

2、カップリング曲「週刊誌」

それからすぐ、
その違和感を元に、クリープハイプの歌詞を読んでみた。
その時点ではまだ上から目線だった。

ぶつかったのは、社会の窓のカップリング

「週刊誌」
その衝撃の一節

「下北の大学生
声かけてきて第一声
握手して下さい
本当に大好きなんです
いつも救われてます
僕もすぐ追いつきます
CDは持ってないけど
YouTubeで毎日見てます」

そこから一気にサビに入る。

サビの「クリスティーナ」に込められた怒り。

その歌詞を見た時、もう足はCDショップに向かっていた。
その時点で手に入る初回限定のクリープハイプのCDを全て買った。

それほどまでに衝撃だったのはなぜか。

当時の大多数のバンドマン、ミュージシャンは、
そしてレコード会社やアーティスト事務所も
CDが売れない時代をわかりつつも
認められない、認めたくない時代だった
某有名ミュージシャンは、受け入れられずYouTubeに違法アップロードされるものをトカゲの尻尾切りのように追いかけては、
時代の変化に毒を吐くこともできず、
静かな苛立ちを抱えながらも何も言えていなかった。

そんな時代に遂に一石を投じたとまでは言わなくとも、
文句を言い放った。
それがクリープハイプだった。

「CD買えよバーカ」

こんな文字にすれば、いくらでもバカにされる時代がもう来ている。
きっと全てのミュージシャンがそんなことはわかっていながら、
クリープハイプだから言葉にできたその歌詞は、
暗く長いトンネルの出口の光が垣間見えた刹那。

間違いなく社会の窓をこじ開ける歌詞だった。

3、この歌詞が与えた影響

この歌詞が与えた影響なんてものは実際大したことはないかもしれない。
ただそれから、定額ストリーミングやダウンロードの流通が定番化してきていく。
「CD買えよ」
そんなこと言ってる時代は終わっていく。
ただあの瞬間だったからこそ、
ミュージシャンは新曲リリースのタイミングで、
違法アップロードされる前に、
YouTubeに新曲のPVをオフィシャルでアップし、
「より聞いてもらえるように」
という形へ変化していっている。

聞いてもらうことでしか、
CDを買ってもらえることもないのだから。

もはやCDうんぬん、
ストリーミングでもなんでも、
そこで聞いてもらえれば、
それが価値になる。

下北の舐めた大学生は黙ってろ。
文句言いたきゃCD買ってから言えよ
クリスティーナ、ねぇ君はどうだい?

これは矛盾であり、気持ちである。

伝える言葉は、時空を超えて、
今この瞬間に響け。

4、「変な声」

「曲も演奏もすごくいいのに
なんかあの声が受け付けない」

その声を貫いた。
ただそれだけのこと。

「もっと普通の声で歌えばいいのに
もっと普通の恋を歌えばいいのに」

彼にとっての普通のことを
歌い続けただけ。ただそれだけ。

痛みも悔しさも全部引き連れて
あの日切り裂いた社会の窓が
今もステキな音楽を届けてくれる。

あの曲がなければ、
きっと今のクリープハイプはなかったし、
今の時代もなかっただろう。